孤独死事故の実態と損害

孤独死事故の実態
孤独死の男女比83:17男性の死亡割合が高い傾向である。
また、女性の方が早く発見される傾向は同じであることから、事故発生時における居室内の損傷度は女性の方が小さい。
よって、やはり男性単身者に対する対策が重要だという結論は同じである。
季節要因としては、1月と8月の事故件数(報告件数)が多い。1月は室内の寒暖差によるヒートショック、8月は高温による熱中症が影響していると考えられ、毎年ほぼ同じ傾向。よって、私は冷暖房設備の重要性に着目している。昨今の異常気象を考えると、気温が低い日や高い日に自動で稼働する機能や稼働を促す連絡手段が有効であり、特に高齢者や軽度の認知症の方は体感温度等の自覚が低いこともあるため、室内温度の調整管理は未然防止対策の1つと考える。

次に地域要因としては、事故の発生率は関西圏が若干高い傾向にあるが、一方、発見されるまでの平均日数は関東17日に対して関西13日と多少早い。
全国を見ても関西が最も発見されるまでの期間が短いが、その明確な理由については分からない。

ただ、男性より女性の方が早く発見されるのはコミュニケーション力の差が1つの理由だとも考えられており、関西の方は他人との付き合い方が上手いのかもしれない。
例えば、毎日飲み歩いている男性が数日来ないということで心配されて発見が早かったケースがあった。
やはり、外で他人に自分の存在を認識してもらうことが重要であり、その方法は人それぞれにあるのだということを実感した。

特徴的なのは家賃帯である。
孤独死事故は、北海道では月3万円、関西では月4万円、東京では月5万円の家賃帯での発生が多い。
いずれも当該地域における単身高齢者の平均家賃帯だと推察する。
逆に月10万円以上の家賃では事故事例が少ない。
これは、当社の保険加入物件がその家賃帯が多いということもあるが、仮に家賃と収入が連動しているとすれば、ある程度収入がある方は仕事をしていたり、または友人との交流があるなど、人とのコミュニケーションが保たれている可能性が高いと考えられる。

心と身体両方の健康を支えるにはお金も大事な要因であり、社会全体の問題として捉えることが必要であるという有識者の見解にも繋がる。

事故による損害
発見されるまでの日数と損害額には大きな関係がある。
端的に言えば、死後腐敗しない状態で発見されるか、腐敗がかなり進んだ状態で発見されるかで損害額は大きく異なる。

事故見積書の最高額は、遺品整理費用60万円+原状回復費用240万円、合計300万円超であった。
このケースでは、腐敗したご遺体の体液がキッチン下に流れ込み、キッチンの交換が必要になったことが高額になった要因である。
他にも、風呂場の事故による浴槽の交換やゴミ屋敷の遺品整理(ゴミの撤去)費用などは高額になる。
また、死亡場所が布団やベットであることは少なく、当たり前だが突然死の場合は死ぬ場所を選べないことを思い知らされる。
なお、この損害額をご遺族等の入居者側が負担することは稀であり、当社の事故ではほとんどのケースで家主側が負担している。

参考文献:一般社団法人 日本少額短期保険協会より
https://www.shougakutanki.jp/general/info/kodokushi/index.html

 

 

  事故の事前対策となる見守りサービスについてです。

  第1回目でも述べたとおり、人の「死」を防ぐのは難しいですが、万が一「死」を迎えた
 ときに早く発見することは不可能ではなく、その対策が何よりも重要です。
  これは孤独死の事故現場に立ち会った者にしか分からないとは思いますが、ご遺体の腐敗
 が進んだ凄惨な状況を目の前にすると、亡くなった人も、発見した人も、遺族も、片付ける
 人も、誰もが望んではいなかった結果であることは明白であり、それを防ぐまたは軽減する
 唯一の方法が「見守り」であると強く認識しました。

  その見守りサービスを大きく分けると、「機械で行うもの」と「人が行うもの」がありま
 す。

  「機械で行うもの」を安価な順に紹介すると、
  ・最安値はスマホを活用したもので、毎日、見守られる人のスマホに自動メールが届き、
   それに何らかの反応をすることで生存確認を行うもの。(充電器のオンオフで判定する
   のもあります)
   設定した期間内に反応がない場合は、登録者(見守る側)にアラートメールが発信され
   るというサービスで月額数百円程度。
  ・最高値は警備会社による機械警備で、居室内に設置したセンサーが異常を検知した場合
   は登録者にアラートを発信するだけではなく、現地に駆けつけて入室することもでき、
   必要があれば救急等の手配も行うもの。
   ただし、費用が月額4,000円前後のため、親族間での導入が主となるでしょう。
  ・その中間にあるのが、人感センサーが着いた照明や開閉センサーが付いたドアで、最近
   では小型ロボットなども注目されており、費用は月額1,000~2,000円前後。
   これらは、普通の生活環境ではいずれも効果があると思います。例えば、昼間に電気が
   つけっぱなし、夜間電気がついていない、数日間トイレや玄関ドアの開閉がないとなれ
   ば、何らかの異常が生じていると判断できるからです。(旅行中や電気を止められては
   いない前提)
  ・他にも、電気や水道の利用状況で判断するサービスもあります。これは1棟単位で導入
   できるのもあり、かつ見守られる人の見守られている感も軽いことから、管理会社や家
   主側が導入するには効率的です。

  「人が行うもの」としては、シンプルな見回りや飲食物の配送等で在宅(生存)確認する
 サービスや、定期的に電話を掛けて話し相手にもなってコミュニケーションを取るという親
 切なサービスもあります。

  以上の見守りサービスは、それぞれに特長があることから何が最適かという評価はできま
 せんが、私は、少なくとも3日生存確認ができなかったらアラートが発信されることは必須
 だと思っています。
  なぜなら、見守りサービスの導入目的は死亡事故の早期発見であり、過去の事故例を見る
 と、浴室やこたつ等の特殊な場所での事故を除くと、3日以内に発見されればご遺体の腐敗
 (居室の損傷も)が少ないからです。

  今後の見守りサービス普及の課題は2つ。1つは、電気や水道を止められていたり、ゴミ屋
 敷など、普通の生活環境ではない人の見守りで、このケースでは機械によるサービスには限
 界があります。もう1つは、他人との接触を極度に避ける(見守られることを拒否する)人
 の見守りです。

  孤立・孤独死問題は、不動産業界(管理会社や家主)においては認識されるようになりま
 したが、入居者個人にはまだまだそのリスクは伝わっておらず、「死んだ後のことは知らな
 い」と言い切る風潮がゼロではありません。
  そこには、「死」=誰もが「棺に入って」「火葬される」という固定概念しかないからで
 あり、そうではない悲惨さをどこまで啓蒙できるかが今後重要だと考えています。

 

事前対策となる見守りサービスの重要性について触れましたが、それを導入しても
 孤独・孤立死事故がゼロになることはありません。発生した死亡事故の発見が遅れると居室
 内の損傷が激しくなり、多額の原状回復費用が生じます。また、事故物件になると次の入居
 者が決まりにくく、家賃を下げて貸し出すなど、家賃の損失も生じることがあります。

  これらの経済的損失を補償する保険が、所謂「孤独死保険」であり、タイプとしては「家
 主型」と「入居者型」の2つがあります。
  「家主型」は、家主(管理会社等を含む)が自分の所有物件に保険を掛けるもので、家主
 側が負担することになった原状回復費用(遺品整理・特殊清掃・リフォーム等)に加えて、
 事故後の家賃損失の補償が付いています。保険料の目安は1部屋あたり月額200~400円位で
 補償金額は原状回復費用が100~300万円、家賃損失の補償が最長1~2年となります。なお、
 保険会社が補償する原状回復費用は、あくまで当該死亡事故によって汚損したところの原状
 回復費用であり、居室全体のリフォーム費用が補償される訳ではありません。当社において
 も、リフォームの見積書は100~150万円(遺品整理費用含む)が多いが、平均支払額は60万
 円です。
  「入居者型」は、賃貸住宅を借りる際に入居者が加入する家財保険に孤独死補償が付帯さ
 れている保険商品で、通常は家賃損失の補償は付いていません。注意しなければならないの
 は、孤独死補償(金)の支払先が入居者の遺族や保証人であり、家主側には支払われない場
 合があることと、契約者である入居者が解約してしまえば保険の効力はなくなることです。
 事故後の損失を負担するのは家主側が多いことを鑑みると、「家主型」の方が保険商品とし
 ては安心であることは間違いありません。

  孤独死保険の加入とは関係なく、死亡事故が起きれば当然居室を貸し出せる状態に戻さな
 ければなりません。まずは遺品整理(残置物の撤去)から始まり、そのあと居室の清掃・リ
 フォームとなるわけですが、居室の損傷が軽微なケースを除いては専門業者へ依頼するのが
 一般的です。
  遺品整理業者を選ぶポイントでは、費用は基本的に遺品(残置物)の量に比例し、見積書
 の段階である程度は判定できるため、追加請求の有無について確認する程度でよいと思いま
 す。問題は作業内容で、遺品の中で価値がある物の選別や、廃棄等その後の作業が正しく行
 われているかなどですが、ここは実績件数から判断するしかありません。
  次に清掃・リフォーム業者。ご遺体の腐敗が進んだ現場では、大量の体液の除去と死臭の
 消臭作業が必要となり、これを総じて特殊清掃と呼ぶことがありますが、これこそ専門業者
 にしかできない作業です。作業完了後に一見きれいに見えても「菌」が残っていれば異臭は
 復活してきます。まずは業務用オゾン消臭器での消臭が行われますが、建物の基礎にまで体
 液がしみ込んでしまった場合などは大掛かりなリフォーム工事が必要となります。ここをお
 ろそかにすると次の入居者からのクレームにも繋がるため、特に「消臭作業」については経
 験と実績重視の選定となるでしょう。

  なお、孤独死事故においては、発見後に早急な対応をしないと居室の損害は日々増大し、
 物件価値の減少や隣接住人の退去といった二次被害の可能性も出てきてしまうため、事故が
 起きる前から専門業者を選定しておくことが重要だと考えます。

  日本の孤独・孤立対策については、政府が「孤独・孤立対策担当室」を設けるなど、この
 数年で本格的な対応が開始され、官民一体となった取り組みが進むことが期待されます。
  私が委員長を務める日本少額短期保険協会の「孤独死対策委員会」においても、孤独死事
 故の未然防止を目的とした保険会社目線での分析を継続していきます。
  なお、同委員会による「孤独死現状レポート」や当社の事故事例から孤独死の現状を以下
 のとおり整理します。

  ①高齢者に限った問題ではない。(59歳以下の死亡割合が40%もある)
  ②圧倒的に男性が多い。(男女比は、協会レポート83:17、当社88:12)
  ③男性は女性に比べて発見されるまでの日が長く(3日以内に発見される割合は男性35%
   女性50%)、そのため居室内の損傷が大きくなる傾向にある。
  ④気温が低い1月と高い8月の事故報告(発見)件数が多い。
  ⑤家賃5万円以下での発生率が高く、家賃10万円以上での発生は稀である。

  以上により、年齢に関係なく、家賃5万円前後の物件に居住する男性単身者にフォーカス
 した対策が重要であることがわかります。

  人の「死」を防ぐことは難しいが、死亡事故を早く発見することは可能であり、その対策
 となるのが見守りサービスです。
  私は、3日間反応(生存確認)が無かったら親族等にアラートが発信される機能は必須で
 あると考えており、これは、当社の事故事例にて3日以内に発見されたケースではご遺体の
 腐敗が少なく、居室の損傷も少ないと思われるからです。

  死亡事故が起きてしまったあとの経済的損失を補償する所謂「孤独死保険」は、貸主サイ
 ドには家主や管理会社が自ら加入する「家主型」の商品を推奨します。(保険料は1部屋月
 額200~400円位、補償は原状回復費用が100~300万円、家賃損失の補償が最長1~2年)
  また、「孤独死保険」の加入有無に関係なく事故後は居室を元通りにするために、遺品整
 理業者や清掃・リフォーム業者の選定が非常に重要であり、これは事故が起きる前に選定し
 ておくことをお勧めします。
  さらに、特に重要なのは「消臭作業」であることも付け加えておきます。

  最後となりますが、「孤独死保険」を開発することになり、その現状を知るために自分の
 目で孤独死の現場を見た衝撃は今でも忘れることができません。
  凄惨な状況と死臭はそれまでの「死」に対する価値観を一変させ、「絶対に自分はなりた
 くないし家族にもさせたくない」と強く思い、当時一人暮らしだった母には見守りサービス
 を導入しましたし、私も将来単身となれば必ず見守りサービスを設置します。それくらい強
 い衝撃でした。

  しかし、このような体験は不動産業界の一部の方を除けば稀であり、その凄惨さは一般人
 には認識されていません。
  よって、「死」=誰もが「棺に入って」「火葬される」という普通の「死」だけを想定し
 ていて、「死んだ後のことは知らない」という無責任な発想も生まれるのだと思います。

  今後の孤独・孤立対策においては、不動産業界側の対策強化だけではなく、このような賃
 借人など個々人の意識改革を図る「孤独死リスク」の啓蒙活動も同時に必要であると強く感
 じています。