千度の祈りを込めて歩む。八坂神社「おせんどまいり」で願う古都の安寧


古都の風情が色濃く残る京都。その中心、祇園に鎮座する八坂神社は、厄除けや縁結びの神様として広く信仰を集めています。華やかな祇園祭をはじめ、年間を通して多くの参拝者が訪れるこの由緒ある神社には、独特の参拝方法「おせんどまいり(御千度詣)」が伝えられています。今回は、その奥深い魅力と、実際に歩いて感じる祈りの心を紐解いていきましょう。
千回分の祈りを込める、特別な参拝
「おせんどまいり」と聞くと、文字通り千回も参拝するのかと驚かれるかもしれません。しかし、八坂神社におけるおせんどまいりは、少し異なる形で行われます。その作法は、本殿の正面と裏側で祈願と参拝を繰り返すというもの。正面で願いを込め、裏側でも静かに祈りを捧げ、再び正面へ戻る。この一連の流れを、なんと3回繰り返すことで、合計千回分の参拝と同じ功徳があるとされるのです。
おせんどまいりの手順
実際に「おせんどまいり」を体験してみましょう。

  • 御千度木札を授与: まず、境内のお守り授与所にて「御千度木札」(初穂料300円)を授かります。手に取ると、その年の干支が可愛らしく描かれています。お守りとして持ち歩けるように、神紋入りの錦袋も一緒にいただけます。色とりどりの錦袋から、お好みのものを選べるのも嬉しいですね。
  • 正面での祈願と参拝: 本殿正面の賽銭箱の前へ進み、丁寧に二拝します。そして、御千度木札を両手で挟み、心の中で願い事を念じます。日々の感謝、個人的な願い、家族の健康…様々な思いを込めてください。祈願が終わったら、通常の参拝作法である「二礼二拍手一拝」で深くお辞儀をします。
  • 本殿裏側での祈願: 本殿に向かって右側(西側)から、ゆっくりと時計回りに本殿の裏側へと移動します。正面の賑わいとは異なり、裏側は静かで落ち着いた空気が流れています。ここにも祈願所があり、正面と同じように御千度木札を手に持ち、改めて祈りを捧げます。正面とは異なる場所で祈ることで、より一層気持ちが引き締まるのを感じるでしょう。
  • 正面に戻り完了(三周): 裏側での祈願を終えたら、再び時計回りに正面へと戻ります。正面に戻ったら軽く礼をし、これで一周が完了です。この一連の流れを、心を込めてあと二周繰り返します。三周すべて終え、最後に正面で一礼をすれば、「おせんどまいり」は完了です。
    千度の祈りに込められた願い
    なぜ、3回の往復で千回分の参拝となるのでしょうか。それは、古来より「数を重ねる」ことでより強い祈りの力が宿ると考えられてきたことに由来します。一歩一歩、正面と裏側を往復するごとに、願いが積み重なっていくような感覚を覚えます。
    「おせんどまいり」は、個人的な願い事の成就はもちろん、地域社会の安寧を願う意味合いも持っています。特に祇園祭の期間中には、祭りの安全を祈願する神事「お千度の儀」が行われたり、芸舞妓さんたちが技芸の上達と祭りの無事を祈って御千度参りを行う様子も見られます。これは、八坂神社が地域の人々の生活と深く結びついている証と言えるでしょう。
    古都の歴史とともに歩む祈り
    八坂神社の創建は古く、平安京遷都以前に遡ります。長きにわたり、この地の人々の信仰の中心としてあり続けてきました。祇園祭もまた、平安時代に始まった疫病退散の祈りが起源とされています。このように、八坂神社は悠久の歴史の中で、人々の喜びや悲しみ、そして祈りを受け止めてきたのです。
    「おせんどまいり」は、単なる参拝方法という枠を超え、八坂神社の歴史と人々の信仰が織りなす文化そのものと言えるでしょう。一歩ずつ歩みを進める中で、古都の静けさや神社の厳かな雰囲気に身を委ね、心静かに祈る時間は、きっと特別な経験となるはずです。
    京都を訪れた際には、ぜひ八坂神社を訪れ、「おせんどまいり」を通して、古代から受け継がれてきた祈りの心を感じてみてください。千度の祈りが、きっとあなたの願いを天へと届けてくれるでしょう。