かつて甲子園の街に住み、その熱気も、土の匂いも、歓声の響きも、生活の一部として肌で感じてきた身として、今回の「7回制導入」の議論は到底、黙って見過ごすことはできない。
あの神聖な場所が、そして高校野球という文化が、今まさに大きな曲がり角に立っている。
「え、7回?小学生のリトルリーグじゃないんだから……」
そんな違和感を抱くオールドファンも多いだろう。9回裏2アウトからの逆転劇こそが野球の醍醐味だ、という気持ちは私も痛いほどわかる。
しかし、この「7回制+DH制」へのシフトを紐解いていくと、単なる時短を超えた**「高校野球の根本的なパラダイムシフト」**が見えてくる。
1. 戦術の「リトルリーグ化」:打つやつから順に並べろ!
9回制なら「下位打線でチャンスを作り、上位で返す」というセオリーが通用した。しかし、7回制になると打席数が圧倒的に減る。様子見をしている暇はない。
結果どうなるか?戦術は極めてシンプル、**「打てるやつから順に1番、2番に並べる」**超攻撃型オーダーが主流になる。
さらにDH(指名打者)制が導入されれば、バントで1アウトを献上するような悠長な野球は姿を消すだろう。初回からフルスイングで殴り合い、最初の3イニングで勝負を決める「格闘技のようなスピード感」に変わっていくのだ。
2. 「大谷翔平」はもう甲子園からは生まれない?
効率主義の7回制+DH制の世界では、「投げる専門」「打つ専門」の分業化が加速する。
少し打撃が良い程度の投手を打席に立たせるより、打撃特化のDHを置く方が監督としては合理的だからだ。大谷翔平選手のような規格外の二刀流が育つ土壌は、高校野球からは失われてしまうかもしれない。
3. 王者陥落?私立強豪校が「一番損をする」理由
実は、このルール変更で最も頭を抱えるのは選手層の厚い私立強豪校だ。
7回制なら公立校の「たった1人の好投手」が最後まで投げ切れてしまう。私立が誇る豊富なリリーフ陣や代打の切り札が出番を迎える前に、試合が終わってしまうのだ。「番狂わせ」が急増し、これまでのパワーバランスは大きく崩れるだろう。
4. 記録の連続性は崩壊。いっそ「新甲子園」と呼ぶべき
イニングが減れば、過去の偉大な記録に未来の選手たちは物理的に届かなくなる。
清原和博の「通算13本塁打」はもちろん、桑田真澄の「通算20勝(戦後最多)・150奪三振」も、打席数や投球回が減る新ルールでは更新不可能になるだろう。江川卓が春のセンバツで見せた「1大会60奪三振」のような怪物じみた記録も、7回制ではもはや幻だ。
これまでの100年の歴史と、7回制の数字を同じ土俵で比較するのはナンセンスだ。だからこそ、ルールが変わるなら大会名も**「新・甲子園」**と銘打ち、記録も完全にリセットすべきではないか。伝統への敬意を示すためにも、これは必須の作業だ。
5. 最大のメリット:プロへ「肩を温存」できる
失われるものばかりではない。この「新甲子園」最大のメリットは、**「才能ある投手の肩を、プロまで温存できる」**ことだ。
球数制限と7回制が組み合わさることで、高校時代に肩や肘を使い潰す悲劇は激減する。短いイニングを全力で投げる習慣がつけば、将来170km/hを投げる日本人が当たり前のように世界へ羽ばたく未来が待っている。
まとめ
「9回制の情緒」を愛する気持ちは今も胸にある。
しかし、アマチュア野球は「未来の才能を育てる育成リーグ」として、合理的な7回制(新甲子園)へと脱皮する時期に来ているのかもしれない。「別物の競技」として割り切って観れば、これはこれでとてつもなく面白いスポーツになるはずだ。